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青井 茂 株式会社アトム 代表取締役

エセ資本主義に100年もつ街が創れるか?

木下斉×國領二郎

BIZQUEST

この国には、子どもたちをビジネスの冒険に連れ出す大人が、もっと必要だ。

1.日本に古くから伝わる茶道や武道の修行では、通常、弟子は「守破離」のステップを踏む。まずは、師の教えや技を忠実に守り、確実に身につける「守」、他の流派からも良いものを取り入れ、さらに発展させる「破」、そして流派から離れ、独自に新しいものを生み出す「離」。こうした考え方は人間形成や教育においても通じるが、日本の学校システムでは「守」にばかり重点が置かれ、既定路線から外れた子どもは途端に異端児扱いされてしまう。「たとえば、学級委員はみんなの意見を平等に聞き、まとめる能力を要求される。でも本来リーダーとは折衷案を考えるのではなく、自分の意見を堂々と表明するべきもの。日本ではそうした能力を養う土壌がない」。木下斉氏はそう話す。

2.近年、決断できない日本人が増えている。それは決断するのに必要な“思考の瞬発力”が欠けているからだと木下氏はいう。判断し、決断する能力はなにもリーダーばかりが必要なわけじゃない。この会社でいいのだろうかと悩み、愚痴をいいながらも定年まで働き続ける会社員が一体どれだけいることか。「決断する時には捨てることも大事だが、結局、判断する力も捨てる勇気もないからいつまでも現状維持。しかし、若いころから決断したり、選択したりする局面にたくさん立たされてきた人は判断がいつもシャープだ。そうした経験を積むのは若ければ若いほど、思考力が柔軟でいい」。だから木下氏が始める「ビズクエスト」は子どもを対象にする。

3.木下氏は今夏、子どもたちが遊び感覚でビジネスを学べるプロジェクト「ビズクエスト」を始動させる。子どもたちは自分でものを仕入れたり、売買したり、利益を管理したりする体験を重ねていくが、ユニークなのは、まずは彼らになにも教えず、自力で考え、ときに失敗し、改善するというプロセスを踏ませることだ。「自転車も、実際に乗ってみなければ走れるようにならない。知識ゼロの状態から未知のことに取り組むのが教育の本質だと思う」と木下氏。当初は都内の子どもを対象に小規模でスタートするが、「明治維新もはじめは国民の0.012%しか関与していなかったと言われている。小さな動きでも継続すれば、やがては世の中を変えるものになるはず」と話す。

4.「いずれビズクエストを東京から地方へ広げたい。地方にビジネスリテラシーの高い人が増えれば、地方は自立の道を歩めるはず」と語る慶應義塾常任理事の國領二郎氏。現在、国から補助金が落ちて来るのをじっと待ち、それにぶら下がっている地方都市が非常に多く、これが現在、日本における地方創生を阻んでいると指摘する。「開発が成長を呼ぶと勘違いしていて、東京並みの巨大な開発をやろうとするから、採算が合わずに失敗する。でも補助金でカバーできるから赤字に苦しむこともない。この現状を変えるには、義務教育の段階から子ども達にお金や組織、リーダーシップについて教えること。そうしたスキルを持った人が市民全体の1%を超えたら、日本の地方都市はもっと変わる」と木下氏もいう。

5.かつての日本では、地方こそ商才溢れる起業家達が多く活躍していて、たとえば江戸時代の北陸は北前船や薬売りなどのビジネスで一大商圏を築いていた。しかし、こうした逞しい“地方スピリット”は、いつしか政府からの補助金という“麻薬”で麻痺してしまい、みずから考え、現状を変えるという気概も失われてしまったようだ。待っていれば頭上の木から甘い果実がふってくるのだから、あえてその場を離れ、果実を探しに森へ入る必要もない。だがもし木の根が腐り、まもなく倒れることに気づく人がいたら−。彼はおそらくしがらみや馴れ合いが複雑に絡み合う密林へ足を踏み入れ、新たな果実を探しはじめる。そして、その閉ざされた世界へ踏み込んだ先で見つけるものは、かつて活躍していたアントレプレナーたちが築いた、大文明の遺跡かもしれない。

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