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青井 茂 株式会社アトム 代表取締役

日常という鎖を、旅という斧で断つ。その瞬間の解放感は名薬であり、麻薬でもある。

Top Athlete + Recovery

吉田麻也、石川歩

吉田麻也
リカバリーとは体の状態が落ちてするものではなく、いい状態を保つために同じことを淡々と続けること。

2018年7月2日、ロシアW杯決勝トーナメント1回戦「日本vsベルギー」は、世界中の人に強い印象を残した。後半終了間際の逆転ゴール。その瞬間、芝生を叩きながら泣き崩れた選手もいた。

「悔しいですよ、今でも。でも悔しさは、絶対に忘れない。この気持ちをバネにこれからの4年間、自分を突き動かしていかなくちゃいけないから」

つい昨日、ロシアから帰国したばかりの吉田は言う。

前回のブラジル大会では、「しばらくの間、気持ちが燃え尽きて再スタートが難しかった」と語っていたが、「今回は」と聞くと、「いや、燃え尽きています。もうサッカーはしばらく見たくないですね」と笑った。

「でも、心身共に過度のストレスがかかっているというのは理解しているんで。ここでちゃんと充電しないと今シーズンに影響が出てくるから、一度、頭をリセットするのが大事だと思っています」

試合が続く過酷な毎日では、日々のリカバリーがとても重要な役目を負う。交代浴をして疲れをとったり、映画を観てリラックスしたり、普段の日課である就寝前のストレッチは、W杯期間中も欠かさなかった。

「リカバリーって、体の状態が落ちたからするのではなくて、日頃から体や心をニュートラルに整えて、いい状態をキープするために行うもの。だからこそ、同じことを淡々と続けるのに意義がある。車もそうじゃないですか。壊れてからガレージへ行くんじゃなくて、普段から定期点検をちゃんと受ける。僕らでいうと、その定期点検が毎日のリカバリーなんですね」

4年後、吉田は再びカタールでのW杯に挑む。それまで、どうやって今大会を自分なりに消化して、新たな境地へ飛躍するか。戦いはいま、始まったばかりだ。

石川歩
週に一度の登板日以外、6日はリカバリー日。毎日15分間の瞑想で、自分と向き合う。

侍のような風貌から、一匹狼とメディアで評されることも多い。2017年にはWBC開幕戦先発の大役を任され、「常に飄々としている」と権藤投手コーチからも高く評価された。その「飄々とした感じ」は、一体どうやって培われるのか。

「意識していることはないんですが、3年前から続けている瞑想が役立っているのかもしれません」

毎日、就寝前や起床時に約15分間黙って座る。敗戦日には当然心がざわつき、試合のことが頭を駆け巡る。そういう時は「無理してやらない」と言うが、そんな日でもあえて自分と向き合う時間を作ることで、心の中で片がつく。

石川には、勝つための流儀がある。たとえば、登板の翌々日は完全オフだが、派手に呑むなど決して羽目を外さない。遠征には質の良い睡眠を確保するため、枕や寝間着を持参する。面白いのは、そうやって自分なりのルールを守り環境を崩さない一方で、たとえシーズン途中とはいえ、興味を引かれたものは積極的にやってみることだ。つい3週間くらい前から、登板の前日や当日にグルテンを取るのをやめたところ、「体調がよくなった」ので今も継続中だという。リズムは守るが新しいものも取り入れる、その柔軟さが「飄々とした感じ」の所以かもしれない。本人は「ストイックな人に憧れる」と言うが、石川自身、「剛と柔を併せ持つハイブリッドなストイック」だ。

1年間143試合。「1週間に一度の登板日以外、6日はリカバリー日です」と石川が語る通り、ベストなコンディションを保つのは想像以上に過酷だ。

「移動中にはハートウォーミングな映画を観ます。その時くらいですね、野球を忘れられるのは」

石川は最後にそう言った。強面の顔がほころんだ瞬間だった。

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Greatest of All Time

G.O.A.T.YARD

世界四大スピリッツといえばジン、ウォッカ、テキーラ、ラム。そのうち、世界のナイトシーンで最もよく飲まれているのがウォッカだ。「でも、日本酒や日本産ウイスキーは外国でも人気なのに、そういえば日本生まれのウォッカってないよね」と気づいた、エジプト人と日本人のハーフ、エルサムニー・アリーさん。日本を愛する想いから、「ワールドワイドに活躍する、日本製ウォッカを作ろう!」と、福井県内にある老舗酒造の協力を得て開発したのが「KEYS & BRICKS」だ。雪解け水を仕込み水に、蔵人達の卓越した技が生み出す純国産ウォッカは、アルコール度数35%ながらすっきりした口当たり。あえてプレーンの味を作らず、「カクテルだけでなくストレートでも楽しんでもらいたい」と、マンゴーやレモンなどのフレーバーウォッカだけ製造するのが特徴だ。甘すぎず風味豊かなマンゴー味と、無農薬の瀬戸内レモンをぎゅっと加えたレモン味、ソーダ割りなどもいいけれど、ウォッカ本来の持ち味を楽しむために、まずはショットで試して欲しい。「ショットって罰ゲームで一気飲みするもんじゃないの?」というイメージを持っているなら、それはたちまち覆されるはずだ。

本来、スピリッツのショットはお祝いの席や「今日は仲間とがっつり飲むぞ」というときに登場する、最高の盛り上げ役。広尾のどまんなかにあるコートヤードで、夜空を仰ぎ見ながら気のおけない仲間たちとショットを2杯飲み干せば、「コートヤード」転じて「ゴートヤード」。それはまさしくGreatest Of All Timeなひとときとなるに違いない。

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Hiroko Otake Exhibition

Metamorphosis

儚さの中にある力強さに魅せられ、自由と変化を蝶に託す。

幼虫からさなぎを経て、蝶はこの世に再度、生まれる。さなぎの中にあるものは、ほぼ完全な液体であり、そこから蝶として自らを再構築し、美しい成虫に変化するのだ。その完全変態の過程は、生物界の中でもっとも神秘的で、不思議な現象のひとつとされている。

そして、それ以上に不思議なのは、さなぎから再び誕生した蝶には、幼虫時代の記憶が残っているということだ。変わるものの中にある、変わらないもの。「そんなところに魅力を感じる」と、蝶をモチーフに多くの作品を制作する日本画家、大竹寛子さんはいう。

大竹さんが題材として蝶に注目し始めたのは、大学院生だったとき。これからアーティストとしてどんな方向へ進むか考えていたとき、ある日突然、目の前に蝶の大群が美しく舞うビジュアルが浮かんだ。儚さの中にある、力強さ。目の前にある命と、短い一生。個体としての姿は変わり、常に流動的で変化していきながらも、その中心には変わらない命がある。それ以来、相反するものがひとつの中に存在する「蝶」というモチーフに夢中になった。繰り返し、蝶の作品を描き続けた。

「キャンバスに銀箔を貼り、硫黄で焼きつけることで、繊細な濃淡や色合いを表現することもあります。焼き加減により、色も形も変わっていく。思った通りの仕上がりにならないこともあるけれど、作品に全てを委ね、コントロールしようという気持ちを手放すとき、真実の世界が生まれるのだと思っています」

大竹さんの作品は、「日本画」という言葉から連想する堅苦しさを感じさせない。よくいえば伝統的、悪くいえば閉鎖的、そんな日本画の世界を超越し、大竹さんは独自の世界観を築いている。しかし、その壁を乗り越えるのに、楽々と羽をはばたかせたわけではない。「既存のものは信じないタイプ」と自分でも語る通り、大学時代から日本画界独自の権威主義に疑問を投げかけてきた。そのせいで、いま振り返ればアーティストとして遠回りすることもあったかもしれない。だが、悩み、迷い、試行錯誤を繰り返し、ときにはニューヨークやヨーロッパなどを訪れ、ジャンルを超えてアートの最前線を体感しながら、「技法は表現のツールに過ぎない」という考えに到ったのだ。

「人間は、あらゆる意味で完全に自由になることはできません。でも、窮屈さの中にいるからこそ、精神的な自由を追い求め、変化や成長を目指していく。そんな姿を蝶になぞらえ、作品を創りたいと思うんです」。そう語る大竹さん自身、まるで、閉鎖的な伝統社会から解き放たれた、一匹の蝶のようだ。

アパレルやホテルなどとコラボレーションして、アートとしての新しい分野を確立するなど、常に変化の過程にいる大竹さん。2018年11月から2カ月間、コートヤードHIROOのギャラリーで“Metamorphosis”をテーマに個展を開催する。Metamorphosis、すなわち、変容。

「美しく、揺らぎのある世界で、変わらないものがあるとしたら、それは何か。儚さの中にある無限性を表現できたらと思います」

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