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青井 茂 株式会社アトム 代表取締役

ユーモアのセンスとは、変化を受け止める力。混沌の時代をユーモアで泳ぎ切りたい。

FIRST FRIDAY Online Talk Session, Gen Tanaka + Keiji Ashizawa + Naruhiro Nagao

クリエイティブな力がまちづくりを牽引する
FIRST FRIDAY Online Talk Session
MC ⻘井茂(アトム代表/TOYAMATO代表)
芦澤啓治(芦澤啓治建築設計事務所 代表)
⽥中元(電通 CD)
⻑尾成浩(DE-SIGN CEO)
*敬称略、50⾳順

コートヤードHIROOでは、2014年10⽉以来、FirstFridayTokyo(以下、FF)と名打ち、⽉に⼀度のオープンイベントを開催してきました。COVID-19の影響により、2020年4・5⽉のFFはあいにくの中⽌となりましたが、6⽉のFFでは初めての試みとして、オンラインを活⽤したイベント開催にチャレンジ。6⽉のFFのテーマは、「富⼭」。富⼭のまちづくりに対し、共にチャレンジするクリエイティブな仲間を迎え、「富⼭」について、そしてこれからの日本がめざすべきまちづくりについて語っていただきました。

TOYAMATOが進めるクリエイティブハブ構想

青井 ▶︎ 私たちは今、クリエイティブハブという、まちづくりの拠点づくりを目指しています。そこは「働く」だけじゃなくて、「住む」とか「遊ぶ」とかの余白を残した場所。みなさんはどんな場所を作りたいと思いますか。

長尾 ▶︎ 私はワークプレイスの設計含め、「働く」ということをプロデュースしていますが、働き方を考える時、環境、行動、意識という3つを繋いで考えることが多いんです。環境が変われば行動様式も変わる、行動様式が変われば意識も変わる、というように。
今回、新型コロナの問題によって無理やり環境が変わり、リモートワークを始めざるを得なくなった人がたくさんいます。最初は「リモートじゃ無理」と思っていても「意外にできるじゃないか」と自然と意識も変わってきた。そう考えると、人間の意識を変えるなら、ある程度は無理にでも環境や行動を変化させることが必要なのでは、と思います。

芦沢 ▶︎ 世界では、クリエイティブのハブは必ずしも都会にあるわけじゃないんですよね。スイスのデザイン会社「アトリエ・オイ」は、西スイスにある古いモーテルを改造してアトリエにし、そのなかにゲストハウスやレストランまで作っている。世界からクライアントを招き、そこに泊まってもらうんですよ。
「どうしてそんな田舎でやっているだ」と聞くと、「ここが特別な場所であることが重要だ」と彼らは答える。結局、まずは場所がないと始まらないんですよね。

長尾 ▶︎ 新型コロナの一件で、クリエイターに限らず、多くの人が「実はオフィスがなくても仕事ができる」と気づいたと思います。でもその一方、「家は思った以上に快適じゃない」ということも見えてきた。家にいると家事をしなければならなかったり、仕事をするスペースがなかったりなど、困りごとを抱えた人も少なくありません。そういう人をどうケアするか考えたとき、浮上してくるのがクリエイティブハブのようなスペースだと思うんです。

青井 ▶︎ これまでは、そういう場所で仕事ができるのはクリエイターなど一部の人と思われてきたけれど、ほとんどの人たちにそういう場所が有効であるということですね。

長尾 ▶︎ 最近ではシェアオフィスも流行っていますが、現在は、ある業態の人たちがシェアオフィスを運営し、会員になった人がそれを借りるという形です。でも今後はもしかしたら、複数の企業が出資してシェアオフィスを作るというスタイルが生まれてくるかもしれませんね。

田中 ▶︎ 確かに今、リモートで働く人が増えたけれど、たとえば新入社員は一度も先輩や上司と顔を合わせないまま、自宅で作業をしなければならない。それから、営業しようにも、世間に名の知られた人ならまだしも、そうじゃなければどうやって自分をアピールしたら良いのかわからない。そう考えると人と一緒に働いたり、オフィスで社員同士、顔を合わせたりすることにも意味があるんですよね。

長尾 ▶︎ 一緒に長く働くことで「信頼貯金」みたいな人間関係が互いに生まれてくるのは確かです。私たちが働き方をプロデュースする時に大事にしているのは、新入社員や中途採用の社員など、まだ「信頼貯金」が醸成されていない人たちをどうケアするかということ。
TOYAMATOのプロジェクトでも、私たちは何度も富山でお会いして、一緒に飲んだり騒いだりしたうえで、信頼貯金が生まれ、このチームが成立している。今後、新しい働き方を考えていく上では、そうした関係づくりをどうやって進めていくかという課題があります。

芦沢 ▶︎ オフィスという考え方そのものも、今後変わっていくでしょう。これまでのように、「義務的に出社して仕事をする」という感じじゃなくて、「そこに集まるべくして集まった」というオフィスが今後、求められていくのではないでしょうか。そこに行けば新しい発見がある、誰かに会える、仕事の可能性が広がるなど、付加価値のある場所を作りたいと思います。

青井 ▶︎ 確かに、従来の会社は「無理やり」出社していた場所だったかもしれない。でもそうじゃなくて、楽しいとか、出会いがあるとか、飯が美味いとか、そういう要素がオフィスには必要になってきますね。

田中 ▶︎ 私は20年以上前に、スターウォーズの映画を作る「スカイウォーカーランチ」にCGをお願いしたことがあるんですが、そのオフィスはとても面白かった。会議室にダースベーダーがいるんだから楽しくないわけがないですよ。敷地が広くてみんな自転車で移動しているし、敷地にはワインを作る畑もある。よくわからない試作のロボットも転がっていて、そこにいる間はワクワクが止まらなかった。今後、どのオフィスもこうならないと、誰も出社しなくなるでしょうね。

長尾 ▶︎ 今後はあらゆることのオンライン化が進む一方で、リアルな場所の重要性がますます上がるでしょうね。
それから「働く」ということを考える上では「旅」も大切な要素で、僕らは今、旅行や出張の自由が制限されているけれど、本来なら移動時間そのものも楽しみであり、思考のスイッチを切り替えるのに必要な時間だったはず。移動するとか、違う環境に身をおくとか、「働く」ことにはそういう時間や場所が必要で、未来の働き方を考える上では、そのためのインフラを整備する必要性があるんだろうと思います。

上質なクリエイティブには伝搬力がある

青井 ▶︎ 新型コロナの問題をきっかけに、日本人の働き方が今後、変わっていくことは間違いありません。そんななか、どうやって富山のクリエイティブハブを作っていくかということを考えると、まずは人を魅了する場所をプロデュースしなければならないと思っています。でも、「カッコいい」とはどういうことなんでしょうね。これからの時代、なにがクリエイティブの条件になるんでしょうか。

芦沢 ▶︎ 僕はデンマークにある設計事務所と一緒に仕事をしているのですが、そのボスが言うのは、とにかく現代人は情報量の多さに疲れているということ。24時間情報が詰め込まれていて、明らかにストレスのレベルが上がっています。ゆえにストレスを取り除く場所が必要で、だから、自然との繋がりを感じられるキャンプが流行り始めた。住宅についても、たとえインダストリーであっても暖かい材料を使っていこうという動きがあります。

田中 ▶︎ 僕は広告代理店に入ったとき、世の中で話題となっているカッコいいグラフィックをよく参考にしたんですよ。でも自分の仕事にそうした要素を取り込んでもあまり評価されないし、プレゼンでも落ちる。反対に、カッコよくないと思いつつ、自分が作りたいものを持っていくと、意外と通ったんです。
僕らはついカッコいいとか、カッコ悪いとかそういう目でものを見がちだけど、世の中の人はそうでもなくて、むしろ、それが欲しくなるかとか、記憶に残るかとか、そんな視点でものを見ているんだなと思いました。

長尾 ▶︎ 僕も「カッコいい」という要素は大事だと思っていて、なんでも入り口はそこだったりするじゃないですか。カッコいいからのぞいてみようとか、使ってみようとか。
でも一旦中に入ると、今度はソフトな部分に目線が移り、中身の話に変わっていく。だから、富山のクリエイティブハブを考える上では、外見も大事ですが、そこにどんな人たちがいて、どんな仕組みがあって、どんな風に心地いいのか考えることも重要だと思います。
もう一つ、みんなで作るという感覚も大事だと思っていて、富山のクリエイティブハブも早い段階で地元の企業を巻き込み、みんなでベクトルを合わせて温度を上げていくことが必要。完成したときには「今日オープンでしたっけ、以前からやっていましたよね」みたいな感じにしていくことが必要なんじゃないかと思います。

青井 ▶︎ TOYAMATOは、クリエイティブな力がまちづくりには必要だと考えていますが、みなさんはいかがですか。

芦沢 ▶︎ 僕はそもそも、クリエイティブは伝播していくものだと思っています。上質なクリエイティブにはなんとなく人が集まってくる。たとえば、いいレストランをひとつ作れば、その町に似たようなレストランが2つ、3つ出来てきます。真似されたようですが、それでいいんです。ちょっとずつ変わっていき、あちこちに面白いものができれば。だから、クリエイティブはまちづくりに必要な要素だと思います。

青井 ▶︎ そうなると僕たちが富山でやるようなプロジェクトは、今後、伝播のきっかけになるようなものじゃなければいけないということですね。

田中 ▶︎ クリエイティブやデザインは飾りではないので、もちろんインパクトは大事だけど、使っていくうちに「これは必要不可欠だ」って、みんなに思ってもらうことが大切だと思います。クリエイティブは難しいものじゃなくて、なくてはならないものであり、透明傘みたいなものなんだって思ってほしいですね。

長尾 ▶︎ クリエイティブハブというと、どうしてもデザインに直結するイメージが強いけれど、実は創作のプロセスもとても大事。地域を作るとか、覚醒させるとか、新しい価値を生み出すとか、そういうことがクリエイティブな活動になるのだろうし、TOYAMATOがあえて「覚醒」という言い方をしているのは、「ゼロから作る」というよりも、今ある価値にもう一度みんなで気づき、紡ぎ直していこうという意味を込めているから。だから、クリエイティブハブの意味を地元の人に理解してもらい、「こんなこともできるんだ」っていう気づきへ繋げていくことが大事じゃないかなと思います。

青井 ▶︎ みなさんのイデオロギーを改めてお聞きし、クリエイティブハブ構想が一層、面白いものに思えてきました。ひきつづき、どうぞよろしくお願いします。

田中 元Gen Tanaka

1993年武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業。現在、電通のクリエーティブディレクター/アートディレクターとして、東京ガスのキャラクター「パッチョくん」や「世界水泳福岡」ほか多くのプロジェクトを手がけるなど、第一線で活躍。主な仕事に、角川文庫 「発見!角川文庫」、富山グラウジーズ リブランディング 貞子3D 「貞子増殖 渋谷イベント」、マクドナルド 「B I T E ! 」他。主な賞暦にカンヌメディアライオン、クリオ賞、NYフェスティバル、ロンドン国際広告賞、A D C 賞、朝日広告賞グランプリ、グッドデザイン賞、キッズデザイン賞、メセナアワード優秀賞他。TOYAMATOでは立ち上げ前から活動全体のクリエーティブディレクションを担う。

芦沢啓治Keiji Ashizawa

1996年横浜国立大学建築学科卒業。一級建築士。architecture WORKSHOPで建築家としてのキャリアをスタートし、super robotでの2年間にわたる家具制作を経て、2005年に芦沢啓治建築設計事務所設立。カリモク、IKEAなどとの協業やパナソニック ホームズとのパイロット建築プロジェクトへの参画の他、オーストラリアのPeter Stutchbury Architectureとの協働によるWall Houseが「AIA’s 2010 National Architecture Awards」を受賞するなど、建築/リノベーション/家具/照明などジャンルを問わず活躍している。2011年石巻工房を創立、14年には家具ブランドとして法人化。

長尾成浩Naruhiro Nagao

1994年中央大学商学部卒業。株式会社岡村、リンクアンドモチベーショングループなどを経て、2005年株式会社リンクプレイス取締役就任。2012年MBOに伴い、株式会社ディー・サインに社名変更。2017年株式会社大村湾商事(長崎県地域商社)代表取締役社長、2019年株式会社ディー・サイン代表取締役社長就任。オフィス空間をはじめとした「場」づくりのプロフェッショナルとして、オフィスづくりだけでなく、店舗・施設などの構築、オフィス移転に伴う、物件選定・戦略・企画立案まで幅広く携わり、本質的なワークプレイス創りに関するプロジェクトマネジメントを行う。

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