株式会社アトムは、2022年11月4日(金)~11月25日(金) の期間、当社が運営するコートヤードHIROOにて A-TOM ART AWARD 2022「ヴァナキュラーと夜明け」を展示いたしました。
A-TOM ART AWARD 2022「ヴァナキュラーと夜明け」開催の舞台となる建物は、昭和43年に旧厚生省公 務員宿舎として建てられ、当時の生活の佇まいを残したまま現存していました。古き良き建築物を周りの 自然環境を含めて引き継ぎ、現代に合わせて再生し誕生したのが現在のコートヤードHIROOです。本アワードでは、このようなストーリーを持ったこの建物で開催するからこそのテーマを掲げさせて頂きました。この建物を舞台に受賞者4名がそれぞれのヴァナキュラーと夜明けを紡いでいく展示を発表いたします。これまで、様々なアーティストの展示をコートヤードHIROO内3階にありますギャラリースペース 「ガロウ」を主として開催してまいりました。本アワードの受賞者展示では、ガロウの枠を飛び出しコートヤードHIROO1階ラウンジにても展示を行い、会期中盤の11月17日には、受賞者4名に授与する各賞が発表されました。
【 A-TOM ART AWARDとは 】
東京藝術大学 COI拠点伊東順二特任教授と株式会社アトム青井茂代表取締役社長が手を組み、2017年に創設した賞。若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じての都市・地域 活性のきっかけづくりを目指す。昨年行われた第5回目は、テーマに「ヴァナキュラーと夜明け」を掲げ全国の現代美術の分野で活動する学生アーティストを対象に開催した。
A-TOM ART AWARD 2022 詳細:https://a-tomartaward2022.cy-hiroo.jp
A-TOM ART AWARD 2022「ヴァナキュラーと夜明け」
会 期:2022年11 月4日(金)~ 2022年11月25日(金)
授賞式:2022年11月17日(木)17:30 ~
時 間 : 12 : 00 ~ 19 : 00
会 場 : コートヤードHIROO 1F ラウンジ 3Fガロウ 〒106-0031東京都港区西麻布 4-21-2
休廊日 : 月曜日
【審査員総評】(五十音順・敬称略)
伊東 順二 / 東京藝術大学COI拠点特任教授
1995年第46回ベネチアビエンナーレ日本館のコミッショナーを務めた時企画した展覧会タイトルは 「SUKI(数寄)」というものだったが副題は「マルチヴァナキュラー(多方言)の時代」とした。ご存知のように数寄は一つの視点により多様な時間空間を整えるキーワードだが、その後の世界を見通すヒントではな いかと思ったのである。地域の文化は美として昇華される。異なる美の調和を求めることはあらゆる常識 を乗り越えて地球の未来を志向することではないだろうか。「ヴァナキュラー」という名の下に今回開催 されるコンペティションの場合審査に臨む私たちに求められているのは自らの中にある既成概念を組み立て直すことだと思う。その点において、私はそれぞれ私から最も遠い距離にある表現を4つ選ばさせていただいた。
齋藤 精一 / パノラマティクス主宰
アートは社会と接点を持つべきなのか?持たないべきなのか?上から見るべきなのか?斜めから見るべきなのか?正面から立ち向かうべきなのか?「社会とアートの接点をどう持つべきなのか?」という思考実験の様な作品が今回の応募を機会に集まっていたような気がします。結果として「ヴァナキュラーと夜明け」というテーマを体現している作品という名の活動とたくさん出会うことが出来ました。今、私達は起きるはずが無いと思っていた事象にたくさん遭遇せざるを得ない時代にいます。そんな中でアートというのは最適解という近道ではなく、社会との距離を変えながらあるべき人間らしさ、社会の姿を探る大切な手法の一つだと感じています。安全な場所から飛び出してフィールドワークのような知の旅に出ること で、今の社会の形を様々な手法やメディアを通して映し出してくれるそんな作品が多かったような気がします。
永山祐子 / 建築家
平面、立体、映像、パフォーマンスと様々な表現、マテリアルも様々でそれぞれに惹かれる部分があり、特に資料審査の一次ではもう少し見てみたいと思う気持ちが強かった。アートの審査の難しいところでなかなか資料では伝わらない。2次審査で実物を見た時の資料での自分の理解との乖離に戸惑うこともしばしばだ。今回も良い意味で裏切られた。実物はそれぞれに力強さがあり見応えのある作品がコートヤードに並んだ。場所がヒューマンスケールの空間であることでより作品が身に迫ってくるように感じた。野外の自転車とガラスの彫刻はここにそのまま常設されてもいいのではないかと思うほど場所にしっくりと合っていたのも印象的であった。室内作品ではホットサンドのパフォーマンスは見ているだけで思わずクスッと笑みがこぼれる作品。この時代にあって誰でも理解でき共感できる作品の必然性と強さを感じた。また印象深かったのは平面作品、ヌメっした質感の布に覆われたスカル(のように見える)の絵画。モノの有り様に真摯に向かった作品だと思った。独特の質感、量感は絵画を超えて立体作品とも言えるような存在を放っていた。そして最も目を引いたのは人の営みの証を皮膚の型の集積で表している作品であった。こちらは個人作品評で触れたい。それぞれに未来の可能性を感じる作品だった。今回参加した作家たちの作品は今後も色々なところで目にする機会も増えると思うので、その進化を見るのをとても楽しみにしている。 ※受賞作品のみならず、最終審査進出作品への評を含みます。
松橋英一 / 軽井沢ニューアート ミュージアム館長
今回、初めてこのコンテストの審査に参加させていただきました。選考を始める前は、時代を反映してもっとデジタルなものが多く集まるのかとも思っていましたが、手仕事で制作された作品も多く、思っていたよりオーソドックスな作品が多いように感じました。 新人の皆様の作品を拝見する際に心がけているのはその人の未来を見るという事です。出品された作品を見て、作家の未来を含めて判断して優劣をつけていくことは大変なことではありますが、大変楽しみなことです。 受賞後、その作家がさらなる活躍をするかどうか、コンテストはその人の将来を応援する意味で大変有効な仕組みであると考えます。 受賞した皆様の今後の活躍を期待すると同時に、選ばれなかった皆様の中にも多くの優れた才能があったことも事実ですので、応募いただきました全員の未来に期待します。 受賞者の皆様、応募者の皆様には、今後より高いレベルでアートの世界を発展させていただきたいと思っています。
※2022年11月17日(木)に授賞式が執り行われ各賞の発表とトロフィーが授与されました。 審査員の皆さま並びに受賞者の皆さまのコメントをご紹介致します。
「それぞれのかたりて」ー池田杏莉
ソノ アイダ賞
対象:2名
内容:2023年1~2月からのソノ アイダ#新有楽町でのレジデンス 賞金:製作費として20万円
詳細:https://a-tom.jp/ja/business/sonoaida
審査員コメント
応募作品を星座に例えるなら冥王星のように離れた距離を私に感じさせるのが「それぞれのかたりて」だ。製作した本人でなければ決して理解できない感覚と愛情を共有しようともがく椅子たち。しかし、表情が痛ければ痛いほど不思議にうちに響くものを感じるのは私だけだろうか。 池田杏梨氏の作品は五感を駆使してもたどり着けない感情が示唆する感覚をテーマとしているように思える。 わたしたちが見るのは最もバナルな椅子の造形。つまり認識する以前に自動的に生成される意味。しかし、その生成自体がフェイクであると作家は主張しているように思う。言語的認識の曖昧さについて私たちはまだメルロ=ポンティの問題提起に答えを出しきれないままだが、作家は生理的な認識によって言語では表現できない意味を伝えていると私は思う。平凡すぎるものが固有なものになる瞬間をこの作品で体験できると感じている。
( 伊東 順二 / 東京藝術大学COI拠点特任教授 )
ものには記憶がある。特に日本人は八百万の神的な思想を育っていく過程で身につけていく。いま社会に必要なものを生み出すのがデザインだとすれば、いま必要なくなったものをどのようにして消していくのか、消えていくべきなのか、残していくべきなのかといった回答の無い試みはアートになるのかもしれない。「それぞれのかたりて」の作品はこの家具を使っていた人の営みと記憶を池田さんというアーティストが出会ったことで、喪失という新たな見え方を手に入れることができた。アーティストが介在することは新たな視点を持つことでもあり、終わりをデザインすることでもあると この作品を通して強く感じることができた。ぜひこの試みをずっと続けてもらえたらと思う。
( 齋藤 精一 / パノラマティクス主宰 )
ポツンと置かれたソファ。少しくたびれ、誰かが長年座った痕跡が窪みとなっている。ソファの輪郭はぼやけている。曖昧な輪郭を生み出しているのは膨大な皮膚の型をとった蝋。そこには人間の皮膚の跡が見てとれる。その肌の膨大な集積が目の前に存在していることを改めて認識する。その集積からそこにいないある人物が浮き彫りになってくる。作家は型をとる人のところに赴き、昔話などを聞きながらひたすら皮膚の型をとり続ける。その過去の記憶を皮膚の型とともに記述し続けながら。そしてその人の愛用品をもう一つの身体と捉えてそこに皮膚を張り続けていく。この執拗な身体への固執、そこからつながる記憶、久しぶりにストレートに生と死に向き合った作品に出会った気がする。多かれ少なかれ全ての作品の裏にある本質的なテーマではあるものの、なかなかここに直球を投げる作品は少ない中、稀有に感じた。作品の裏にある膨大な収集とリサーチの情景を思い浮かべるとその一連の行為そのものも作品であると感じた。これだけの集中力で作品に向かう姿勢、これからどう発展していくのか今後の作品もとても楽しみである。
( 永山祐子 / 建築家 )
受賞者コメント
この度は、このような素晴らしい賞と共に、ソノアイダでの、貴重な経験をさせて頂く 機会を頂き、有難うございました。また今回、作品制作に協力して頂いたご遺族の皆様、 お忙しい中、素材の収集と度重なるリサーチにお付き合い頂き、本当に有難うございまし た。 この制作を始めたのは、Covid-19 が猛威を振るう 2020 年の 1 月頃でした。 私達が、これまで、何不自由なく当たり前のように過ごしていた Covid-19 以前の日々から、 今は、どこか違った時間を過ごしているように思えます。今回の作品のタイトルになって いる「それぞれのかたりて」は、Covid-19 禍による、外出自粛中に社会現象になった断捨 離で、普段は見向きもしなかった必要のない物が、ゴミ処理場で、沢山捨てられ、焼却されていきました。その光景から、私達のこれまでの日々から分断していくように思え、「人 と物との間にある身体的な関りと、個々のエピソードを通して、Covid-19 を始め、私達が 抱える日々の喪失との共存について」、今後も、作家だけでなく、人々と共に作品制作を通 して、考えていけたらと思い続けています。
(池田杏莉)
「 ホットサンドメーカーズクラブ -I’M FROM HUMAN- 」ーRui Yamaguchi
ソノ アイダ賞
対象:2名
内容:2023年1~2月からのソノ アイダ#新有楽町でのレジデンス 賞金:製作費として20万円
詳細:https://a-tom.jp/ja/business/sonoaida
審査員コメント
アートとは何なのか?時代とともに変化するものであり、社会との距離も変化し続け、発表する場所も変化し続けるものであることは確かだ。世界を同時にCOVID-19が襲ってからその変化は急激にしかも中心を持たない大きな変化を続けているようである。まさにバナキュラーであり非分散的になってきたからこそ生まれるべき作品が山口塁さんの創った「ホットサンドメーカーズクラブ」ではないかと思う。人をつなぐメディアであり、それが起こる地域とその人の文脈を紡ぎ、それをまた違う場所に持っていくこと。ずっと人間が何らかで行ってきたことには間違いないが、どこか忘れてしまっている本当の意味での「対峙」を思い出させてくれたような気がする。ぜひ今後もこの活動や作品を発展し続けてほしい。
( 齋藤 精一 / パノラマティクス主宰 )
山口さんの作品構成はおそらく今回の応募作品の中で表面的には最もチープな内容だと思います。作品は物理的には、ホットサンドメーカー1組とビデオ映像作品だけで構成されています。 しかしながら、作品の拡張性という事を考えると、この構成は無限に広がるツールであると考えます。 山口さんの方法論が深く考えられ設計されたものなのか、そうではなくその場の成り行きで進んで行ったものなのかを考えると後者のファクターが強いのではないかと思います。 作品を支配するのは偶然性であり、その時の状況によりどう進んで行くのか判らない現象の中に置かれ、制御不可能な状況が進行して行きます。 そこには傑作も駄作もなく、一つの事実と時間的経過だけが発生し、私たちの前に置かれます。実際のところ、私はそれを見て、正直どうしていいのか判らなくなってしまいます。 本当にすごいものはこういった作品なのかもしれません。多くの拡張性を秘めたこの作品は販売や保存という意味では美術の範疇に収まらない内容ですが、文化交流や社会情勢なども内包され、常に動いて活動を続けています。そういう意味で、高く評価すべきものであると考えています。
( 松橋英一 / 軽井沢ニューアート ミュージアム館長 )
Rui Yamaguchiの経験して思い描いている世界観をソノアイダでの制作を通してどの様に進化していくか楽しみで仕方がありません。彼が感じる今の東京・有楽町をどの様に昇華していくか。 作品は勿論、彼の制作過程も楽しんで頂ければと思います。
( 青井茂 / アトムアートアワード企画 )
受賞者コメント
A-TOM ART AWARD 2022 ソノアイダ賞の受賞、嬉しいです!作品制作をはじめて3年、ようやく結果に繋がりました。とは言え、様々な人との出会いやコミュニケーションを基に作り上げているので、自分1人の力とも全く思ってません。美術家として世界に出て、直接恩返しできるよう精進します。受賞作は今年の夏3週間ヨーロッパを旅しながら制作しました。帰国後すぐにプレゼンだったので、高い熱量で臨めたと思います。それほど、2年半ぶりの海外は自分にとって刺激的でした。もちろんポジティブな意味だけでなく、パンデミック、戦争、移民、物価高、円安...変わってしまった世界にどう対応し、何を表現するか、今後の自分の生き方含め多くのことを考えさせられました。まだまだ課題も残りますが、得たアイデアを活かしてソノアイダでの滞在制作に挑みたいと思います。
( Rui Yamaguchi )
「 After the flood 」―河合ひかる
コートヤード賞
対象:1名
内容:コートヤードHIROOでの個展 賞金:製作費として20万円
詳細:https://cy-hiroo.jp/gallery
審査員コメント
「After the flood」は言語の洪水の後に訪れる無感覚な状態を創出する。記述的な感覚の束縛に囚われる私たちを逆に情報の洪水で救おうとする意欲的な試みである。テクノロジカルな装置が進めば進むほど無は極限に進むという現代のアナロジーだと思う。 私にとって作家は記号の隔絶を問題にしようと考えているように見える。それぞれの言語を排他的で相互理解不能な記号として捉えるならば言語はコミュニケーションのツールではなくアンチコミュニケーションのツールとなってしまうと作家は見るからである。そしてもしくは何かの記号が他の記号を食い尽くしてしまう支配的な武器にすらなってしまうからである。 この他チャンネルを駆使した作品は異なる記号を溢れさせることで支配という行為が無意味なことである、と諭している。つまり、人間の認知能力を超えた地点に記号の消失点が存在するからであり、私がかつてベネチアビエンナーレで指摘したマルチバナキュラーの時代とはこのような消失点の向こうにある穏やかな風景のことだった。
( 伊東 順二 / 東京藝術大学COI拠点特任教授 )
数台のプロジェクターを使った映像作品も今では珍しくなくなってしまい、こういった作品の構成自体には新鮮さは無くなってしまったが、その分内容が問われることになります。 その意味では、本作品は非常に高度なコンセプトにより制作されており、美術作品の範疇を超えて、社会科学や心理学の領域をまたいで成立しているように感じます。 作者の解説を聞くと、画面に登場する数人の人物は同一の内容を異なった言語で話し、それは同じタイミングでそれぞれ異なったスクリーンに投影されます。 それを聞いた鑑賞者は自己の理解する言語のみが聞こえるというこの作品の仕組みには、単なるアート作品としてではなく、広い領域の科学実験を思い起こさせます。 科学的な作用を利用した作品は様々な形で制作されていますが、多くは従来の科学の原理や瑠論を使ってどのようにそれを美術にどのように応用するかという内容が中心となっていますが、本作品は逆に科学へテーマを提供するような作品となっており、河合さんが発見したこの現象が科学的に理論付けられるのか興味深いものがあります。
( 松橋英一 / 軽井沢ニューアート ミュージアム館長 )
受賞者コメント
このような素晴らしい賞をいただくことが出来、大変光栄に思います。審査員の方々はもちろん、設営や制作に協力してくださった方、また展示にお越しくださった方と多くの方々のおかげで制作や展示を行うことが出来ました。心より感謝を申し上げます。 今回受賞の対象となった作品「After The FLOOD」は、無意識のうちに私たちが他者に向けている暴力的なまなざしを映像表現によって再掲示するという試みの作品です。例えば今、この文章を読んでいるあなたの目の前に私が居たとします。その時、私は「アジア人の小柄な若い女性」としてあなたの目に映るでしょう。そのような情報は、瞬時に私たちの中に浮かび上がりますが、時としてそのカテゴライズは他者を傷つける可能性を持つでしょう。 私の身体は私のもので、あなたの身体はあなたのものなのに、他者の目は恣意的に、私たちの許可を取らずに、私たちを何らかの属性に当てはめてしまうでしょう。では、私たちは本当の意味で互いをフラットで偏見や差別のない目線でコミュニケーションを取ることは出来るのでしょうか。本当の意味で、国境や性別、年代や宗教や思想を乗り越えて隣人と愛を交わすことは可能なのでしょうか。この目がある限り、今は難しいかもしれません。 私はこの作品のように、「言語や記号の優位性を揺らがせる」ことを制作のテーマとし、今後も活動していくつもりです。日常を当たり前に生きる全ての人々が記号の支配から脱して、本当の意味であなたと分かりあうために。私は真の意味での対話、コミュニケーションの実践を目指し創作活動に励んで参ります。
( 河合ひかる )
「 地球影 」―萩原睦
Art Basel Hong Kong 2023賞
対象:1名
内容:アートバーゼル香港2023招待
賞金:渡航費として20万円
詳細:https://www.artbasel.com/hong-kong
審査員コメント
多方言な応募作品の中で自分勝手に楕円形をなす星座的円環に再配置させてもらうと、その中で最も自分自身に近い距離に存在するのは「地球影」だろう。なぜならこの作品は誰の心の中にも存在する暗示的意味と知識として存在する外示的意味の両方に働きかけることを意図しているからである。その意味でこの作品は形態としての意味から脱出してメディアへと変化している。日本の茶の湯における見立てのようにその二つを貫通する視点を表現することが芸術であると私は思う。 そもそも萩原氏の作品の成功は何よりパート・ド・ヴェールというガラス成形技術を選択したことにある。数千年前メソポタミア文明によってガラス造形が成立したと時に既に存在したこの技術は透明性の偏重とともに衰退したが19世紀末に再興されアールヌーボーを支える表現基盤となった。その魅力は陽炎のような半透明性による。作家はこの技法を使って心象と表象を儚く結んで新しい風景を作っている。
( 伊東 順二 / 東京藝術大学COI拠点特任教授 )
この作品の素晴らしさは、熟練した技術で作られた美しいガラス器という部分だけで評価をしてしまえば、優れた工芸品という位置付けで終わってしまうところを、作品を制作する動機とそのコンセプトが詩的であり、それを表現する写真や言葉が作品制作の最初にあることだと思います。 地球の影という壮大なタイトルとイメージを小さなガラスの器につけるセンスとそれを具現する器の色彩を出すための工芸技術のバランスにより優れた作品として結実しているように思います。 美しさ、優れた工芸技術、センスのいいコンセプトというどれか一つを備えた作品はたくさん存在しますが、本作品の優れた点はそれらが一つの作品の中にすべて存在し、バランスがとれているという事なのだと思います。 作者は作品の説明の中で時間や記憶について言及していますが、そういった形にならないものを形で表現できる素晴らしさは特筆に値するものです。 さらに、同一のスタイルで異なったテーマの様々なバリエーションを生み出すことのできる安定した技術とみずみずしい感性は今後の活躍を強く予見させます。
( 松橋英一 / 軽井沢ニューアート ミュージアム館長 )
受賞者コメント
この度は光栄な賞を頂き、ありがとうございました。 今回の公募テーマ「ヴァナキュラーと夜明け」に応募するにあたり、自分の作品に改めて向き合う時間を作り、作品の持つ新たな面に気付くことができました。受賞者展示では、3辺をぐるりと囲まれた一室の空間を用意して下さり、ギャラリーの方から「時間を感じられるような展示空間にしたらどうか」というアドバイスを頂いたので、「夜と朝の間の時間」を感じられるような、新たな空間作りに挑戦しました。 今回、海外に行く機会を頂くことができたので、今後は日本を飛び出して活躍する作家になれるよう、引き続き精進して参ります。この度は本当にありがとうございました。
( 萩原睦 )
__________________________________________
株式会社アトムが主宰のアートレジデンス、「ソノ アイダ#新有楽町」にて、
A-TOM ART AWARD 2022「ヴァナキュラーと夜明け」の入賞者である池田杏莉と山口塁の公開滞在制作が始まります。
ARTISTS STUDIO 第 9 期は A-TOM ART AWARD2022 の受賞者 2 名に加え、
ソノ アイダプロジェクトオーナーであり第 1 期でもレジデンスを行った藤元明もレジデンスアーティストに迎えます。
会期終盤の 2 月 24 日からは滞在制作の成果を発表する展覧会を開催予定です。
『ソノアイダ♯新有楽町ARTISTSSTUDIO 第9期 』
時 間:13:00 〜 20:00
作 家:池田杏莉/山口塁/藤元明
会 期:2023年1月18日(水) 〜 2023年2月26日(日)
成果展:2023年2月24日(金)~ 2023年2月26日(日)
※オープニングレセプション 2023 年 2 月 23 日(木)夕方
会 場 : ソノ アイダ#新有楽町 東京都千代田区有楽町 1-12-1
主催: 株式会社 A-TOM
企画: ソノ アイダ実行委会
協力: 三菱地所株式会社
機材協力: BLACK+DECKER / DEWALT / LENOX / IRWIN
※不定休など、最新の情報については SNS をご確認下さい。
URL: https://sonoaida.jp/
【ソノ アイダ#新有楽町とは】
「ソノ アイダ#新有楽町」は新有楽町ビル 1 階の空き店舗を空間メディアとして活用する期間限定のアートプロジェクトの企画名である。
その企画の一つ「ARTISTS STUDIO」は、アーティストがそれぞれ与 えられた 1 ヶ月半の期間に、作品を制作しながらアーティストとしての営み自体を展示し、作品の販売も行う。スタジオプログラムのアーティストは期間ごとに入れ替り、加えて企画展覧会や「OUT SCHOOL」という現代美術への関わりを体験し学ぶプログラムなども並走しながら、アーティスト不在の都心に、新たなアートコミュニティの形成を目指す。