岡田守弘 『 いっぷくといちあい展 』
会 場 : コートヤードHIROO 東京都港区⻄麻布 4-21-2
会 期 : 2022 年 7 月 1 日(金)―7 月 23 日(土)
時 間 : 12 : 00 〜 19 : 00
休廊日 : 日曜日 / 祝日

この度、コートヤードHIROOでアーティスト岡田守弘による展覧会『 いっぷくといちあい展 』を開催します。
本展示のタイトルの言葉 ”いっぷくといちあい” は「挨拶」の語源ともなった禅の「一挨一拶」から引用しております。

一挨一拶
「禅家で、師と修行者、または修行者同士が言葉や動作で、互いに軽くまたは強くためすこと。」 広辞苑より

テディベアと茶碗は一見関連性のないように見受けられますが、持ち主との時間を深い次元で共有し「成長していく」と言う共通点をもち、触れることで慈しむ「愛玩対象」です。そこには’もの’である彼らと持ち主である人間との対話と共振があります。
種ではなく、たった一つの個体として愛情を注ぐ愛玩陶器。
岡田守弘の作品と「いっぷくといちあい」されてみてはいかがでしょうか。
本展示ぜひご高覧いただけましたら幸いでございます。

― コートヤードHIROO



東洋の茶碗、西洋のテディベア
この相異なる二つの”もの”は、双方「Product /商品」であり「Artifact /工芸」であり「art /美術」であるという興味深い共通点があります。身近な暮らしの要素でありながら、美術品としても高値で取引されるまでに至るいわば’変幻自在’な存在。その三つの要素を行き来できるということは、その可能性を決めるのは持ち主と物の間におこる対話と成長の物語なのです。
まさに茶碗とテディベアの双方には「一挨一拶」のやりとりが存在するのです。


ー世界共通言語である茶道から考える、茶碗を通した美学の共有と己の「成長」ー

アジア文化でなじみ深い茶道の精神と習慣は、西洋にもあります。例えば「午後のお茶」は西洋にとっても一つの文化です。茶の煎れ方、ミルクや砂糖の量、そして容器を楽しむということ。東洋の文化が西洋に理解されることは少なかった時代からも「茶」の文化だけは世界共通言語として存在し、茶碗もその文化の一端を担い共にしてきました。
ただ西洋の「茶会」の文化が外交的でおもてなしの要素を深く含んだ反面、茶道はその上で「己との対話でもあり美学の追求」の要素も強まりました。茶道といえば言わずともしれた千利休は、わび茶の中に芸術性を見出して、「さび」という美意識を広めます。
わび・さびは、『侘しさ』と『寂しさ』を表す日本語で、つまり「不完全さ」への肯定と慈しみの精神と言えるでしょう。物事に完全などないとしたうえで、己の美意識を極限まで追い求めることを美学とし、これは言い換えれば茶を煎れるという人と、茶碗という相棒とのやり取りを通し「不完全である己を肯定し、成長」する過程を楽しむ物なのです。

テディベアもまた、玩具以上の存在であり、その多くの場合名前をつけ、子供と成長をともにすることから自分の兄弟、もしくは親友のような存在として扱われてきました。特に1980年代アメリカのテディベアブームでは、時代柄共働きが多かった家庭の子供の心を支えました。テディベアの存在意義は今も変わらず誰かの心に寄り添い、時間を共有し共に成長していくものとして引き継がれています。茶碗と同じく、”くまのぬいぐるみ”という媒体を通して対話し、不完全を補うように自分を成長させるという過程が確かに存在します。


ー触れるという動作がもたらす親密度ー

日本人にとって器は、お茶を飲む茶碗でも、飯茶碗でも、汁椀でも、手に取り食事をします。
私たちに身について常識となっているこの作法は国際的に見れば珍しいものです。
触れる器がプラスチックなどではなく陶器ならどうでしょうか。
ザラザラしているけれど何故か温かみのある土肌や、ツルツルした釉薬の膨らみ、包み込むように手に取れる重さ。
質感、温度感、器に触れることで様々な表情を感じ楽しむことができるでしょう。

人間にとってかけがえのない存在が生き物であるとは限りません。
幼い頃、私はゾウのぬいぐるみを持っていました。その彼を抱きしめたり、ときに投げたり、口にくわえたり、どこに行くにも連れ回し、そして触れていました。
大人になった今でも柔らかく暖かそうなぬいぐるみを見るだけで心が和み、触れることで落ち着くことができます。
ぬいぐるみとは物でありながら物とは違う感情、何か人間の根本的な気持ちを刺激するような特別なもの。この感覚は、少なくない方が共感されるのではないでしょうか。

千利休の茶道の精神を表した語に「和敬清寂」というものがあります。
和敬清寂の意味は、お互いに心を開いて、お互いの意見を尊重することで、1つの縁を作り上げる。それが、お互いにとって良い影響を与え合うという考えです。

対話を通して成長し、触れることで感じとり、種ではなく、たった一つの個体として愛情を注ぐ愛玩陶器。
岡田守弘の作品と「いっぷくといちあい」されてみてはいかがでしょうか。

本展示ぜひご高覧いただけましたら幸いでございます。





【アーティスト】



岡田守弘
1994年 東京都出身
2020年 東京藝術大学美術学部工芸科陶芸専攻卒業
2022年 東京藝術大学美術研究科修士課程陶芸専攻修了

触れるということはどういうことか。温かいとはどういうことか。茶碗に触れるとき、神経を研ぎ澄まして指先に意識を集中させると、素材の温もりを感じることができる。サラサラ、ゴツゴツ、ツルツルと触れる土肌は硬いけれど、優しく手のひらを楽しませてくれる。それとは別にテディベアに触れたときもまた、私の触覚は強く刺激される。手が沈み込むほどに柔らかいそれは、茶碗のように集中して触れるとどこかくすぐったい感覚になる。そしてテディベアが私に刺激を与えてくれるのは触覚だけではなく、どこか愛くるしい姿をしたぬいぐるみに私は懐かしさや温かさを感じる。触れること、温かさ、そしてそれらのものを愛玩するということはどういうことかを、一つ一つ考えて形にする。

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